「聞いているふり」を卒業し、真の傾聴を実現するには

【解剖!ビジネスコーチ大全第三回】


1on1やコーチングの場に限らず、日常的なコミュニケーションの中でも、「相手の話をしっかり聞こう」と思いつつ、頭の片隅で「次に何を言おうか」と必死に考えてしまった経験はありませんか?

実は、多くのビジネスパーソンが「聞いているふり」をしながら、実際にはあまり話を聞けていないという現実があります。

今回は、書籍『ビジネスコーチング大全』の著者である橋場氏が、「傾聴するフリをして、実は自分が次に何を言うかを考えてしまう」件について、その心理的背景と、相手の話に100%集中するための解決策を解説します。

傾聴を妨げる「付加価値への執着」

「人の話を聞けている」と思っている人もそうでない人も、実態は思った以上に聞けていないものです。その背景には、対話の中で「何か意味のあることを言いたい」「目の前の会話に付加価値をつけたい」という強い思いがあります。

しかし、こうした「自分主体の思考」が強すぎると、意識の矢印が相手ではなく自分に向いてしまいます。結果として、相手が本当に伝えようとしている本質を理解できず、効果的な問いを立てるチャンスを逃してしまうのです。本来のコーチングであれば、次に何を言おうかという脳の動きは一旦脇に置き、純粋に相手を理解し応援することに意識を留めることが理想とされます。

沈黙を恐れる心が余裕を奪う

なぜ私たちは、話の最中に次の言葉を必死に探してしまうのでしょうか。その大きな理由の一つに「沈黙への恐怖」があります。日常のコミュニケーションにおいて数秒の沈黙は気にならないものですが、5秒、10秒と続けば多くの人は気まずさを感じ始め、空気を読み始めてしまいます。

この空白を埋めなければならないという焦りが、「沈黙を回避するための脳内シミュレーション」を生み出し、さらなる傾聴の低下を招くという悪循環に陥ってしまうのです。

「引き出し」の多さが、心の余裕を生む

コミュニケーションが上手な人やコーチングスキルの高い人が相手に深く集中できるのは、次の問いを立てること」に自信を持っているからです。次の問いを立てる、つまり質問がすぐに出てくる。これができる人は純粋に「引き出し」が多く、焦る必要がないのです。

これは、スポーツの世界におけるトッププレーヤーと似ています。

例えば、サッカーのトッププレーヤーは、一つのプレー(状況)に対して「ドリブル」「パス」「フェイント」といった多彩な選択肢(引き出し)を持っています。これと同様に、質問のレパートリーが豊富な人は、必死に考え込まなくても瞬発力で適切な問いを投げかけられます。この「引き出し」の多さが余裕を生み、相手の話に100%集中することを可能にするのです。

集中を妨げないための「仕組み」と「潔さ」

次に何を言うか考える脳の動きを抑え、相手に集中するための具体的な工夫を2つ紹介します。

一つ目は、コミュニケーションの「区切り」を事前に決めておく方法です。例えば、あらかじめ「ありがとうございます」という感謝の言葉で一度会話を終了することを決めておけば、話の途中で次の展開に悩む必要がなくなり、純粋に聞き手に徹することができます。

二つ目は、無理にスマートな質問をひねり出そうとするのをやめ、今の自分の状態を率直に開示することです。「今はあなたの話に集中していたので、次にどんな質問を投げかけたらよいか迷っています」と伝えてしまうのも、立派なコミュニケーションスタイルの一つです。不自然に取り繕うことをやめることで、より深く、純粋に相手を理解し応援する姿勢へと繋がっていくはずです。

まとめ

今回は、「聞いているふり」を卒業し、真の傾聴を実現するための本質的な解説でした。

私たちは対話の中で、つい「何か価値のあることを言いたい」という先回りした思考に囚われがちですが、それがかえって相手への集中を妨げ、コーチングの質を下げてしまうことがあります。真に相手を理解するためには、自分主体の思考を一旦脇に置き、純粋に相手を理解し応援するスタンスに留まることが重要です。

また、沈黙を恐れずに済むだけの「質問の引き出し」を増やすことは、心の余裕を生み、結果として目の前の相手に深く集中することにつながります。

無理に取り繕うのではなく、時には自分の状態を率直に共有したり、あらかじめ会話の区切りを決めたりといった工夫を取り入れることで、対話の質は劇的に変化します。まずは「良いことを言おう」とする気持ちを手放し、相手の話に100%意識を向けることからスタートさせてみてはいかがでしょうか。

「ビジネスコーチング大全」解剖!第1弾はこちら

「ビジネスコーチング大全」解剖!第2弾はこちら

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