AIには代替できない「インクルーシブリーダーシップ」の本質とは

— 須東氏が語る、組織の創造性を解き放つ「信頼」と「個別支援」の力

近年のAI技術の進展は、企業のマネジメントに変革をもたらしています。
データに基づく効率化が進む一方で、「人」がリーダーシップを発揮する重要性は高まるばかりです。AIには代替できない、人間ならではのリーダーシップとは一体どのようなものなのでしょうか。

この問いを探るべく、戦略人事論、リーダーシップ論を専門とし、専修大学 商学部 特任教授を務める須東 朋広氏にお話を伺いました。

本インタビューでは、この分野の第一人者である須東氏と共に、AI時代におけるリーダーシップの役割、そして組織の創造性を最大限に引き出すインクルーシブリーダーが備えるべき具体的な要件とアプローチについて、教育学の視点も交えながら深く掘り下げていきます。

ゲスト:須東 朋広 氏

Interviewee

須東 朋広(すどう ともひろ)

専修大学 商学部 特任教授

戦略人事論、リーダーシップ論、キャリア論を専門とする研究者、コンサルタント。日経
BP総合研究所 客員研究員も兼任。
日本初の人事責任者コミュニティを立ち上げ、その後4つの人事責任者コミュニティを立ち
上げる。またインテリジェンスHITO総合研究所(現パーソル総研)の立ち上げに参画、HRM・組織行動領域での提言を行う一方、雇用・キャリア政策提言の分野でも活動。経済
産業省や厚生労働省、文部科学省など、政府の各種委員会委員を歴任し、日本の雇用政策や
人材ニーズの調査研究に深く関与してきた。
2016年から、組織内で声を上げられない社員(サイレントマイノリティ)を活かすための
提言活動を展開している。最近は企業組織のインクルージョンの在り方や支援型リーダーシ
ップなどを発信している。

インクルーシブリーダーシップとは

インクルーシブリーダーシップとは、組織の多様性を尊重し、すべてのメンバーが能力を最大限に発揮できる環境を意図的に作り出すリーダーシップのスタイルです。

(須東氏)「インクルーシブリーダーシップの本質は、社員一人ひとりが、『自分らしさを発揮しながら、組織に貢献できている』と実感できる状態を作ることです」

AI時代に不可欠な「人間によるリーダーシップ」

(佐々木)「AIが高度な対話やコーチングを行うことができる時代において、企業のトップが『人でなければならない理由』、マネジメントの一部はAIで代替できても、リーダーシップはAIには担えないのはなぜでしょうか」

(須東氏)「AIの進化は意思決定者と作業者を明確に分けることになると言われています。その最終的な意思決定をAIが代行することはできませんし、これからのイノベーションの時代で働く方々が、クリエイティブ力を最大限に発揮させるためには、組織の心理的安全性やモチベーションが不可欠となります。AIには難しい『一人ひとりをしっかりと見て、支援の方法を変えていく』姿勢が重要であり、それはインクルーシブリーダーシップの最も重要なポイントになります」

(佐々木)「なるほど。つまり、AIは一般的なキャリアパスや市場調査は可能でも、企業のミッションやパーパスに沿った形で社員の潜在能力を引き出すことはできない、という認識でよろしいでしょうか」

(須東氏)「まさにその通りです。AIは一般論では答えられますが、企業のミッション、パーパス、そして今まで企業内で思いを持った様々な社員の方々が作ってきたストーリーを理解した上での問いかけはできません。企業で働く人が仕事をする目的は、ミッションやパーパスに対して何をやってもらうかという点にあります。この『相互の会話や認識を揃える』部分の支援は、担えないと考えています」

インクルーシブリーダーシップの具体的なアプローチ

(佐々木)「人材分類の目安として「2:6:2の法則」がよく用いられますが、インクルーシブリーダーは、その中の「ぶら下がり人材」「安定を求める人材」「上昇志向をもっている人材」に対し、どのような点に力点を置いて関わるべきでしょうか」

(須東氏)「まず上昇志向をもっている人材に対しては、『何をやりたいのか』を問いかけ、上司がその成長に繋がる話を作り、会社の上層部にプレゼンをさせるなど、機会を与えることが手っ取り早い成長に繋がります。一方、ぶら下がり人材のような不満や文句を言う批判的な人材に対しては、批判が出尽くすくらいまで傾聴していくことが大切です。マイナスなことを吐き出すとすっきりして前向きになります。そこで『やりたいこと』を聞き、会社にとって有益となる選択肢を提示し、選択させます。選択してもらったら期待成果を本人とすり合わせて実現させるための資源や目標を一緒に議論し実行に移してもらいます。本人を前向きにさせる関わりが必要です」

「インクルーシブの根本的な部分とは、社員が『組織に帰属感を持ち、そして自分らしさを発揮している状態』を指します。特に『言われたことだけやりゃいい』というスタイルが根強い日本企業では、『自分を押し殺している状態』で帰属感だけが高い社員が多く、ここがクリエイティブ力を阻害する大きな課題となっています

(佐々木)「大変よく分かりました。では、昔ながらの『とりあえず指示通りやればいい』というリーダーシップは、変化の激しい現代においては通用しなくなってきているのでしょうか」

(須東氏)「 『作れば売れる時代』は終わり、今は 『売れるものを作る時代』です。ほとんどの企業で社員一人ひとりのクリエイティブなアイデアが求められています。従来型のリーダーシップスタイルは、この創造性を引き出すことができず、組織としては厳しい状況に置かれるでしょう」

信頼構築と現代のリーダー像

(佐々木)「インクルーシブリーダーたるべき人物像、そして信頼を構築するために特に必要な要素は何だとお考えでしょうか」

(須東氏)「インクルーシブリーダーシップは信頼蓄積理論とも言われるように、まず『人間として信頼し合える人』であることが根本です。そして、感情的にならない』というコントロールも極めて重要です。感情的になると部下は思考を停止してしまい、解ける問題も解けなくなってしまうからです。傾聴は訓練できますが、人との対話自体がストレスになる人は向いていません」

(中津)「ありがとうございます。その『信頼構築』という点で伺いたいのですが、リモート環境が浸透する中で、インクルーシブリーダーシップを発揮するために、現場でリーダーがすべきことは何でしょうか」

(須東氏)「リモートは、信頼と心理的安全性が十分に保たれた上で行うべきです。その関係性ができるまでは基本的に面と向かい、社員が職場に来たくなるような』面白い環境やコミュニケーションをリーダーが作ることが重要です。そういった関係性があれば、体調不良などの際にリモートを許容することが、かえってモチベーションを高めます。

また、現在の若い世代と上の世代では、学校教育や集団生活の環境変化から、『お互いの当たり前』が大きく異なっています。リーダーは、自分たちの論理を押し付けるのではなく、世代間ギャップを理解し、その新しい世界観を包摂することが求められます

まとめ

今回の須東氏のインタビューを通じて、AIが進化する現代において、リーダーシップが「管理」から「包摂と創造性の支援」へと本質的に変化していることが明らかになりました。

須東氏が提唱するインクルーシブリーダーシップとは、単に優しい姿勢を示すことではなく、「組織に帰属感を持ち、自分らしさを発揮している状態」を社員に提供し、組織全体のクリエイティブ力を最大限に引き出すための戦略的なアプローです。

その実践には、以下の3点が鍵となります。

①信頼の蓄積と感情のコントロール:組織の信頼を築く「人間性」を基盤とし、部下の思考を停止させないよう「感情的にならない」こと。

②個別に最適化された支援:上昇志向の高い人材から批判的なぶら下がり人材に至るまで、一人ひとりの課題や動機付けに合わせた支援を行うこと。

③世代間ギャップの包摂:過去の成功体験や価値観を押し付けず、若い世代の「当たり前の世界観」を理解し、受け入れる姿勢を持つこと。

企業の持続的な成長には、「作れば売れる時代」の指示命令型のリーダーシップは通用しません

インクルーシブリーダーシップという新たな視点を持つことこそが、組織の潜在能力を最大限に発揮し、激変する市場を生き抜くための生命線となるでしょう。

インタビュアー:佐々木、中津

Interviewer

佐々木 優

ビジネスコーチグループ B-Connect株式会社 COACHING Times 編集チーム

ビジネスコーチグループにて、デジタルマーケティング領域において活動。教育関連の企業を経て、ビジネス領域におけるコーチングを広めることをミッションとする。

Interviewer

中津 晴菜

ビジネスコーチグループ B-Connect株式会社 デジタルマーケティンググループ コミュニケーションズ アソシエイト

ビジネスコーチグループ・B-Connect株式会社にてデジタルマーケティンググループに所属し、コミュニケーションズアソシエイトとして活動。実際にお客様との接点を持ち、その声から引き出した「現場の課題」に対して、真に役立つ解決策と情報を発信。

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