
『NECのカルチャー変革と次世代リーダー育成の取り組み』【セミナーレポート前編】
経営者を育てることにより、組織が改善されるだけでなく、育成文化の醸成が進むことがあります。この現場を見てきた加藤氏に、NECの変革プロセスを語っていただきました。NECは掲げた変革の目標に対して、どのようにアプローチしていったのでしょうか。
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speaker
加藤 久美子氏
日本電気株式会社 ピープル&カルチャー部門 人材組織開発統括部
タレントマネジメント シニアマネジャー 臨床心理士
プライスウォーターハウスクーパースコンサルティング、IBM、ノバルティスファーマにてタレント・アクイジション、タレントマネジメントおよび組織開発に携わった後、大学院修士課程において臨床心理学を専攻、精神科病棟でカウンセリングやデイケア業務を経験。修了後、現在に至るまでNECのコーポレート部門にて、全社のタレントマネジメント戦略およびサクセッションプランニング、育成計画およびその実行をリード。臨床心理士、MBTI Level II、DiSCプラクティショナー。趣味はパーソナルカラーコーディネート、西洋占星術(週末占い師)。
手に取れる商材から形のない価値提供への転換
“伸び悩んだ業績” から始まった前代未聞の大改革
「私たちNECは125年の歴史を持つ会社ですが、それはイノベーションの歴史でもあります」
この加藤氏の言葉から始まった本セミナー。登壇された加藤氏は、NECのカルチャー変革の流れの中でタレントマネジメント(次世代リーダー育成)に携わっています。
「NECは、お客様のニーズに応える形で、ハードウェアを提供するビジネスモデルで成長してきました。例えば、パソコンや携帯電話のような手に取れる製品です。しかし、ここ20年ほどで市場は、社会価値といった『形のないもの』を求める傾向へ変化してきました。」
現在、NECはパーパスを掲げ、安全・安心・公平・効率をキーワードに社会価値の創造を目指して取り組んでいます。しかし、そこにいたるまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
「社会価値を創造する会社になりたい」と舵を切ったものの、多くの苦労が伴ったと加藤氏は言います。その言葉に、セミナー会場の誰もがその重みを感じた様子でした。市場の価値観がモノ消費からコト消費へと変わり、 “従来の成功体験を捨て、新たな考え方を持たなければ生き残れない” と危機感を抱いた企業は、NECだけではないでしょう。
「サイバーセキュリティやビッグデータなどの成長分野に人を集めるなど、さまざまなリソースの投資をしましたが、2018年頃まではほとんど伸びませんでした。」と加藤氏。
2018年、NECが中期経営計画を撤回し、大きな衝撃を与えた年でもありました。それが、時代を生き抜くためのNECの大改革の始まりだったのです。
優秀だが、イノベーションは得意とは言えない
社員11万人の『カルチャー変革』への挑戦
「私どもはパーパスを実現するにあたって、戦略と文化、これを同列に置いております」と話された加藤氏によると、当時の社長は、業績が伸び悩んでいた理由として、「社会に貢献する精神を持ち、顧客のニーズを聞くことや、上司に従うことなどに優れている一方で、採算を度外視してでも良いものを提供しようという意識が強すぎた」と話していたそうです。
社員の多くは優秀で非常に高い実行力を持っているものの、イノベーティブなアイデアを創出したり、それを自由に議論することは得意とは言えなかったのだそうです。これを克服するために取り組んだのが『カルチャー変革』でした。2018年当時、社員11万人の意識と行動を変える取り組みは、まさに大きな挑戦だったと加藤氏は言います。
「私たちの特徴は、現場社員の声と徹底的に向き合うことでした。当時、新野元社長が、タウンホールミーティングで約1万人のグループ全体の社員と対話をおこないました。そのコミュニケーションの中から、『無駄な仕事が多い』、『内向き文化』、『大企業病』、『スピードが遅い』などの声が挙がりました。」
これを持ってトップマネジメント層も覚悟を決め、社員の声をもとに6つのキードライバーに整理をして取り組んでいくことにしたのだそうです。今回のセミナーではその中の象徴的な二つについて触れていただきました。

NEC社員が最も苦手な項目を行動基準に定義
社長自ら現場に足を運ぶ、改革の徹底
その二つとは、NEC社員として望ましい行動とは何かを定義した『Code of Values(行動基準)浸透とマインドセットチェンジ』、そして『オープンで分かりやすいコミュニケーション』です。
一つ目の『Code of Values(行動基準)浸透とマインドセットチェンジ』は、社員から出た意見を分析し、NEC社員が最も苦手とする5つをバリューに落とし込んだというので、その変革への覚悟がどれほどのものであったかは想像に難くありません。
Code of Values行動基準
視線は外向き、未来を見通すように
思考はシンプル、戦略を示せるように
心は情熱的、自らやり遂げるように
行動はスピード、チャンスを逃さぬように
組織はオープン、全員が成長できるように
※NECコーポレートサイトより https://jpn.nec.com/profile/corp/necway.html
そして、もう一つの『オープンで分かりやすいコミュニケーション』。
「さまざまな取り組みがある中で、面白い例としては、当時の社長がアポなしで事業所に足を運び、社員と対話し、その様子を撮影して、全社で放映しました。トップマネジメントの覚悟はもちろん、改革を社員と共にやろうとしたことが、伝わってくるエピソードだと思っています。」と加藤氏。
それにより ”社員が改革を共に進めよう” という気持ちになったと言います。
次世代リーダー育成の目標は“強い経営チームを作る”こと
次に、次世代リーダー育成について加藤氏にお話を伺いました。
NECでは次期経営者を育成するサクセッションプランを、昔から真面目に行っていのですが、先述の改革前までは、経営幹部の後継者として名前が挙がってくるのは、シニアなの日本人男性ばかりだったそうです。
それではグローバル市場で生き残っていけない、”もっとダイバーシティ色の濃いタレントプールを作りましょう” と方針を定め、やり方を大きく変えました。
グローバルグループで約1,000人、そのなかでも特に投資をすべき対象を、100~150人に絞って育成をかけているといいます。
「これらの取り組みはビジネスを伸ばすために行っています。ですので、強い経営リーダーを作るのみならず、強い経営チームを作るということを目標に動いております」と加藤氏。
このタレントマネジメントの取り組みには、大きく分けると『育成のフェーズ』と『登用のフェーズ』があり、『育成のフェーズ』では、リーダーシップ開発研修やスキル系のトレーニング、役員が担当するラウンドテーブルなど、タレントマネジメントの取り組みによって進められる施策はますます充実しているといいます。
しかし、同時に課題として、「人が育つのは、『経験によるところが約70%』とも言われ、グループをまたいでリーダーシップを発揮するために組織を超えた経験をすることが重要なことですが、それは非常に苦労も多いだそうです。
成功体験にとらわれず、手放せるか
リーダーは“適応課題”に向き合えるかが重要
また、このグローバル化したとても複雑で不確実な世の中で、成功の鍵は、「自分のこれまでの成功体験であるとか、強く信じてきたものっていうものを手放したりすることができるかどうかにかかっているようにも思います」と加藤氏は指摘しています。
ビジネスをリードする、現代のリーダーは経験してきたことだけによらない、”適応課題”にどう対応するかが重要だといいます。
そのために、変化を受け入れ、行動していく助けとなる、企業エグゼクティブ向けのコーチングについて後編にて触れていきます。
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