Z世代のエンゲージメントが低い本当の理由。~教育システムが奪った『好奇心』を取り戻す、リーダーの包摂力~
INDEX
「最近の若手は何を考えているのかわからない」
「指示待ちで主体性が感じられない」——。
現場のリーダーから漏れるこうした悩みは、
果たして彼ら個人の資質や意識の問題なのでしょうか。
専修大学 商学部 特任教授を務める須東 朋広氏へのインタビュー第2弾となる今回は、キャリア教育の観点から、インクルーシブリーダーシップを「実践」するための糸口を探ります。須東氏は、若者の主体性が欠如している背景には、個人の能力不足ではなく、彼らが育ってきた「教育システム」との構造的な因果関係があると指摘します。
「あるパパ友」が直面した家庭での葛藤エピソードを入り口に、AI時代に求められるリーダーシップの新たな機能、すなわち、個々の好奇心を組織のエネルギーへと変える「戦略的な包摂」のメカニズムについて、じっくりとお話を伺いました。
ゲスト:須東 朋広 氏

Interviewee
須東 朋広(すどう ともひろ)
専修大学 商学部 特任教授
戦略人事論、リーダーシップ論、キャリア論を専門とする研究者、コンサルタント。日経
BP総合研究所 客員研究員も兼任。
日本初の人事責任者コミュニティを立ち上げ、その後4つの人事責任者コミュニティを立ち
上げる。またインテリジェンスHITO総合研究所(現パーソル総研)の立ち上げに参画、HRM・組織行動領域での提言を行う一方、雇用・キャリア政策提言の分野でも活動。経済
産業省や厚生労働省、文部科学省など、政府の各種委員会委員を歴任し、日本の雇用政策や
人材ニーズの調査研究に深く関与してきた。
2016年から、組織内で声を上げられない社員(サイレントマイノリティ)を活かすための
提言活動を展開している。最近は企業組織のインクルージョンの在り方や支援型リーダーシ
ップなどを発信している。
正解のないAI時代に、なぜ若者の「好奇心」が失われているのか?
—— 前回のインタビューでは、インクルーシブリーダーシップの概念的なお話しを伺いましたが、現在はZ世代に関する調査や研究にも注力されているそうですね。
須東氏: はい。最近は特にZ世代の学生や若手社員の研究に時間を割いています。そこで強く感じるのは、彼らの語彙力の不足やコミュケーションの課題以上に、育ってきた背景にある、キャリア形成における「好奇心の抑圧」という問題です。
「やりたいこと」が消えていく教育の構造
——「好奇心の抑圧」ですか。それはどのような背景から生まれているのでしょうか。
須東氏: Z世代の学生たちと接していると、自分の意見を出すのをためらう傾向が見受けられます。本来、子供の頃は誰もが「これをやりたい!」という純粋で強い好奇心を持っているんですよね。しかし、旧来の偏差値至上を良しとする、受験に対する親御さんの向き合い方が、その芽を摘んでしまっている。特に中学受験などの早期教育において、親や塾が「正解」や「効率」を押し付けすぎることで、子供が「自分が何をしたいか」よりも「どうすれば評価されるか」を優先するようになってしまうんです。こうしたプレッシャーが、若者の好奇心を奪い、キャリア選択の幅を狭めているんです。
「あるパパ友」が直面した、わが子の個性とシステムの矛盾
——教育とキャリアは地続きだということですね。須東さんの周りでもそのような話はありますか?
須東氏:興味深いエピソードがあります。私の知人の「あるパパ友」の話なのですが、中学受験を控えた子供の学習方針について、非常に悩んでいました。
そのパパ友のお子さんは、算数や理科が大好きで、特に計算力という素晴らしい強みを持っていました。計算力を磨けば、中学受験での選択肢は多く存在している。しかし、親はどうしても計算以外の「記憶問題」や「文章問題」といった、お子さんの「苦手な部分」に注目し、それを克服させることをまず考えてしまう。結果として、お子さんの持っている良さを生かせない家庭内コミュニケーションになっていたんです。
インクルーシブは「甘さ」ではない。リスクとリターンで捉える戦略的人材管理
——組織においても、個々の個性を生かす「包摂」が不可欠だということですね。
須東氏:ええ。ただし、インクルーシブは人によっては「甘え」と捉えられることがありますが、決して単なる「優しさ」ではありません。むしろ、一人ひとりの特性をどう活かし、組織のパフォーマンスを最大化するかという「リスクとリターン」の観点に立った、きわめて戦略的な人材管理のあり方です。
その象徴的な例として、ある特例子会社で行われている「包括的アプローチ」によるメンタル再生の取り組みが挙げられます。そこでは、メンタルダウンにより派遣されてきた社員に対し、最初の1週間、昼休みのすべてを使って「自分自身について語る」場を設けています。聞き手となるのは、主に先天的な精神疾患を持つ社員たちです。
初日、派遣された社員は自信を失い、たどたどしく話し始めます。しかし、聴衆は真剣なまなざしでその言葉に耳を傾け、話し終えると心からの賞賛を贈ります。これを1週間繰り返すうちに、話し手の中には「自分はここにいていいんだ」「誰かの役に立てるんだ」という強烈な自己有用感が芽生え、驚くべき速さで自信を取り戻していくといいます。
これは単なる「癒やし」の場を設けているのではありません。個人の尊厳を回復させるプロセスを組み込むことで、再び組織の戦力として機能させるための高度なマネジメント手法です。一見すると非効率に思える「対話の余白」に投資することが、結果として個人のポテンシャルを再点火させ、組織全体のリターンを最大化させる。これこそが、私が提唱するインクルーシブな戦略的人材管理の本質なのです。
リーダーに求められる「教育方針の転換」――「型」にハメる管理から「余白」を作る対話へ
——AI時代になり、リーダーの役割も変わってきていると感じます。
須東氏: まさに。これからのリーダーに必要なのは、組織の論理を押し付ける力ではなく、相手の中に眠る可能性を信じ、それを引き出すための「人材開発方針の転換」に近いマインドセットです。
私が提唱しているフレームワークも、最終的にはその「対話の余白」を生むためのツールに過ぎません。「対話の余白」とは、リーダーがすぐに答えを提示して管理するのではなく、部下が自分の強みに気づき、自律的に試行錯誤できるための心理的・時間的なスペースのことです。一律の管理ではなく、一人ひとりの特性に合わせた「インクルーシブ(包摂的な)」関わりこそが、これからの組織の競争力を決める。私はそう確信しています。
【まとめ】これからのリーダーに求められる「包摂」の視点
今回の須東氏へのインタビューを通じて見えてきたのは、Z世代のエンゲージメント不足という表面的な現象の裏にある、根深い「好奇心の喪失」という構造的課題でした。
これは単なる個人の意識の問題ではなく、「欠点の克服」や「他人軸の評価」を優先し、個々の強みを二の次にしてきた教育・社会環境との因果関係、すなわち『構造的課題』が背景にあります。こうした環境下で「自分の強み」を語ることを失ってしまった若者に対し、現代のリーダーが意識すべきポイントは、以下の3点に集約されます。
・「主体的な探求心」を呼び覚ます: 教育や社会のシステムによって「型」に嵌められ、好奇心を抑圧されてきた若者に対し、組織が新たな「探究の場」となること。
・「組織の論理」を絶対視しない: 過去の成功体験やシステムの都合を一方的に押し付けるのではなく、個々の強みや苦手な部分を前提とした関わりを持つこと。
・戦略的な「個別のマネジメント」: インクルーシブとは、単なる精神論ではなく、本人が考えるリスクとリターンを見極め、一人ひとりに最適化された支援を行う高度なマネジメント手法である。
AIが正解を瞬時に出す時代だからこそ、人間であるリーダーに求められるのは「正解を教えること」ではなく、部下が自ら考え、動きたくなるような「余白」をデザインすることなのかもしれません。
インタビュアー:佐々木、中津

Interviewer
佐々木 優
ビジネスコーチグループ B-Connect株式会社 COACHING Times 編集チーム
ビジネスコーチグループにて、デジタルマーケティング領域において活動。教育関連の企業を経て、ビジネス領域におけるコーチングを広めることをミッションとする。
